第五章:昇段への道

弓道の修練の過程は、全日本弓道連盟が定める段級位及び称号の制度によって、客観的な到達度が示される。昇段審査は、自己の修練の成果を問い、次なる目標を設定するための重要な節目である。

5.1.級から高段位へ ― 段級位制度

弓道の位階は、五級から一級までの「級位」と、初段から十段までの「段位」に分かれている。

審査内容:審査は、実技と学科によって行われる。

  • 実技:指定された本数の矢を射て、その射形・体配・射品、そして段位に応じた的中数が審査される。初段・弐段では的中は必須ではないが、参段からは規定の的中数が合格の条件となる。
  • 学科:『弓道教本』の内容に基づいた筆記試験であり、弓道の理念や射法八節に関する深い理解が問われる。
  • 昇段の要点: 段位が上がるにつれて、単なる技術の正確さだけでなく、動作の美しさや品格(射品)、そして一連の動作における落ち着き(体配)がより重視されるようになる。

5.2.指導者の称号 ― 錬士・教士・範士

段位が技術的な習熟度を示すものであるのに対し、「称号」は指導者としての適性、人格、見識を総合的に評価するものである。

  • 錬士(れんし): 五段以上の段位を有し、堅実な志と弓道指導の実力を持ち、修練の功績が顕著な者に与えられる。指導者としての第一歩である。
  • 教士(きょうし): 錬士の称号を有し、人格・技能・見識を兼ね備え、弓道指導に必要な高い学識、教養、実力を有し、弓道界への功績が顕著な者に与えられる。熟練した指導者として認められた証である。

5.3.指導者の称号 ― 錬士・教士・範士

範士(はんし)は、弓道における最高位の称号であり、全ての弓道家が目指すべき理想像である。

範士の資格要件: その要件は、技術を超越した人間性の完成を求める、極めて深遠なものである。

  1. 徳操高潔(とくそうこうけつ): 徳と操(みさお)が高く、清らかで潔いこと。
  2. 技能円熟(ぎのうえんじゅく): 技能が円満に熟達していること。
  3. 識見高邁(しっけんこうまい): 物事の本質を見抜く見識が、極めて高く優れていること。
  4. 弓界の模範(きゅうかいのもはん): 弓道界全体の模範となるべき存在であること。

段位及び称号の資格基準

 位階 最低限の前提資格実技要件(一例)公式規定による定性的基準評価の主眼
初段級位的中不問射型・体配が型に適い、矢所の乱れぬ程度に達した者基本的な射法八節と体配の遂行能力
参段弐段2射1中以上体配落着き、気息整い、的中やや確実な者安定した射形と、それに伴う一定の的中率
五段四段2射1中以上射形・射術・体配共に法に適い、射品現われ、精励の功特に認められる者技術的な正確さに加え、品格(射品)の現れ
六段五段2射2中射形・射術・体配共に優秀にして射品高く、精錬の功顕著な者高いレベルでの技術的優秀性と高い品格
七段六段2射2中射形・射術・体配自ら備わり、射品高く、錬達の域に達した者努力の跡が見えず、自然で練達した射技と品格
八段七段2射2中技能円熟、射品高雅、射芸の妙を体得した者技術を超えた「芸」の域に達した、円熟した射
錬士五段以上審査あり人格、技能、識見共に備わり、指導に必要な学識、教養、実力を有し、功績顕著であること高度な指導能力、学識、弓道界への功績
教士錬士審査あり人格、技能、識見共に備わり、指導に必要な学識、教養、実力を有し、功績顕著であること高度な指導能力、学識、弓道界への功績
範士教士選考のみ操高潔、技能円熟、識見高邁であり、弓界の模範であること弓道の理念を体現する人格、見識、生涯の貢献

弓道の道程が、単なる的中率の向上から、射の質、品格、そして最終的には人間性の完成へと深化していく過程を明確に示している。

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